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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)1461号 判決 1963年5月31日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人袴田重司の上告理由第一点について。

原審が、本件三陸定置漁業組合の組織、運営等に関し確定した諸般の事情のもとで、同組合は民法上の組合である旨判断したのは、正当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、右と異つた見解に立つて原判決を攻撃するにすぎないから、採用できない。

同第二点について。

原審は、本件三陸定置漁業組合は組合規約をもつて毎事業年度の事業計画の設定変更および毎事業年度における借入金の最高限度については総会の議決を経なければならない旨定めていたのに、組合長である粟田正夫は昭和三〇年度の事業計画の設定および同年度の借入金の最高限度について総会の議決を経ていなかつたこと、それにもかかわらず、粟田正夫は、同組合の代表者として、被控訴人(被上告人)との間で、同年一月二二日から同年九月二四日までの間に、本件漁業用資材の取引をしたことを確定しているが、控訴人ら(上告人ら)および訴外及川陸三郎ら合計二三名は、三陸沿岸で定置漁業を経営する目的で前記組合を組織し、前記粟田正夫をその組合長に選任し、その業務の執行に当らせていたこと、被控訴人は同組合の個々の組合員が右資材の取引について不同意を示したとか、組合長である粟田正夫が組合規約に違背して右資材について取引をしたことを知らなかつたことおよびこのことについて被控訴人に過失がなかつたことも、また、原審の確定するところである。そして、組合において特に業務執行者を定め、これに業務執行の権限を授与したときは、特段の事情がないかぎり、その執行者は組合の内部において共同事業の経営に必要な事務を処理することができることはもちろんのこと、いやしくも、組合の業務に関し組合の事業の範囲を超越しないかぎり、第三者に対して組合員全員を代表する権限を有し、組合規約等で内部的にこの権限を制限しても、その制限は善意無過失の第三者に対抗できないものと解するのが相当である。したがつて、原審が、前記確定事実に基づいて、粟田正夫が本件組合の代表者として被控訴人と本件取引をした結果生じた本件債務については、本件組合の全組合員が責任を負うべきである旨判示したのは正当である。

所論は、右と異つた見解に立つて原判決を攻撃するに帰するから、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田 克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)

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